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レス妻の出会い調教体験談|モラハラ夫には秘密の願望
『アン……アァアン……』
月曜日の午前中。
1月中旬の冬晴れの陽に照らされる、1DKマンションの狭いリビング。
その食卓テーブル上のスマホ画面には、ベルトで手足を拘束された状態で、男に身体を愛撫されて喘ぐAV女優が映し出されている。
「……っ」
画面の中の女優が身体を弄ばれる姿を見ながら、広美は熱い息を吐いた。
①夫には秘密の情事
黒いストレートのミディアムヘアを1つにくくった広美は、白いニットのトップスをまくり上げ、ブラジャーの上から乳首をまさぐっている。
もう片方の手は、ひざ丈スカートの奥に入り込み、ショーツの上から秘部をなぞり続けている。
毎朝7時に勤務先の✕✕県市役所へ出勤する夫を見送り、朝食の皿洗いや洗濯といったある程度の家事を済ませた後、SM動画を見ながら1人、手慰みに耽る。
これだけが、主婦である広美の唯一の癒やしだった。
スマホ画面の動画を前に1人きりで性器を慰めるこの行為を、広美は虚しいとは思わない。
広美への当たりが日ごとにきつくなる夫に不満を抱えながら、1DKの狭い部屋で家事をするだけ。
夫の忠史とのセックスは、もう2年近くない。
そんな、灰色のモヤが延々とかかり続けるような日々の、唯一の癒やしがこの行為なのだから。
動画では、セクシーなランジェリー姿の女の胸と下半身を、男が同時に責めている。
同じ女だから、なんとなくわかる。
画面越しの女優の、耳まで赤くなり恍惚とした顔とハッハッという犬のように速い呼吸や、身体のひくつきは演技ではなく、リアルに感じている可能性が高い。
今の広美と同じように。
身動きの取れない女優の乳首と陰核を、男が執拗にこねている。
『アアン……そこ、気持ちいい……アアアッ』
動画の淫らさが良い感じに増していくほど、広美の身体も熱くなる。
部屋着用のベージュのノンワイヤーブラを、広美はぐいっと引き下げる。
ぷるん、とCカップの膨らんだ両乳房がまろび出た。
スカート下のショーツも脱ぐ。
光熱費の削減に必死な夫の言いつけで、暖房の温度を低く設定しているリビングのひんやりした空気に、熱く硬直した乳首と秘部がさらされる。
硬くなりコリッとした両方の乳頭を、親指で何度も擦る。
「、は……」
それだけでは物足りなくなり、両手で乳首をぎゅっとつねる。
「あっ」
強い快感が走り、我を失ったような感覚になる。
ここが自宅の狭いリビングということも忘れ、画面の男女の淫らな行為と快感に広美はどんどんのめり込んでいく。
もう、そろそろ、やばいかも。ここ……
左手を下半身に伸ばす。
つぷ……
中指で入口に触れた瞬間。
淫らな液で溶けきった内部に、指が吸い込まれていく。
「んっ」
クチュリ。
一旦吸い込まれた中指を、なんとか引き抜く。
そのまま、ヌルヌルの液がたっぷりついた指先を、ぷくっと芽吹いた紅色の陰核に当てる。
「あっ……」
強い刺激に、広美の一見地味だが、よく見ると、奥二重の目と鼻、小さめの唇といったそれぞれのパーツの綺麗に整った顔が、快感に歪む。
すっかり顔を出したクリトリスを、ぬるぬると中指の腹で擦り続ける。
「あ、ふ……」
暖房温度の低い薄ら寒い部屋にいるのに、ニット下の脇が汗ばんできている。
『ハアアンッ!』
画面の中の女優が、鞭でスパンキングされて喘いでいる。
広美はそれを見ながら、右手で乳房の先端を、左手でクリトリスを転がし続ける。
自慰のとき、広美はローターやバイブなどの玩具は使わない。
アダルトグッズを買いたくても、もし夫に見つかったら、「なぜこんな物を持っている」「買い物は俺の許可した物だけのはずだ」などと怒られ面倒なことになるのは目に見えている。
いつも自分の指だけで慰めているうちに、敏感部の乳首と陰核をねちねちこね回すのを好むようになった。
「んん……」
ヌルヌルのクリトリスが丸くぷっくりしているのがよくわかる。
最近、陰核の突起がどんどん過敏になってきている気がする。
──プツン。
急に、スマホの電源が落ちた。
もう何年も使っている古びたスマホはバッテリーが劣化していて、データ容量も少ないため、動画の再生中に急に落ちることがある。
それでも、新しいスマホには買い替えられない。
「まだ使えるだろう」と、夫が言うためだ。
真っ暗な画面に、ブラジャーから乳首をむき出した広美が映る。
(私、なんていやらしいことをしているんだろう……)
再び電源をつけ、さっきまでの動画を再生する。
画面内の女優は、M字開脚でイスに縛り付けられ、男の巨大な一物で貫かれている。
『アハァンッ! イクうぅッ』
(うらやま、しい──)
セックスで存分に快楽を得て、乱れる女優が羨ましい。
男の淫靡な愛撫とペニスが欲しくてたまらない。
そこにSMも加われば、もっと良いのに。
手枷や足枷、麻縄、鞭、目隠しといった、物々しい雰囲気の非日常なアイテムも使って、いやらしく責められて、思いきり快楽を感じてみたい。
欲しい、欲しいと思えば思うほど、性器をまさぐる広美の手の力が増す。
何かに取り憑かれたように、画面を凝視したまま乳房の先端とクリトリスを転がし、熱い刺激に集中する。
「ふぁああっ……」
広美の身体が、快感にひくついた。
「はぁ、はぁ……」
しばらく余韻に浸ると、ブラジャーを上げ、ショーツを履いた。
広美はいつも、ある程度満足したところでこの行為を終わりにする。
自慰では、そこそこの快楽しか得られないからだ。
広美が本当にしたいのは、拘束されて、男の手で愛撫されることだ。
それが叶わないから、もう2年以上も、1人での行為でごまかし続けている。
時計を見ると、13時を過ぎていた。
(まずい、もうこんな時間。買い物に行かないと。寝室とお風呂場の掃除もまだだったわね)
急いで昨日の夕食の残り物の昼食を済ませて、買い物へ行く準備をする。
夕食の材料やなくなりかけている日用品を、夫の言いつけ通り1つも忘れずに買いに行かなければ、また怒られる。
買い物から帰ったら、部屋のすみずみまで掃除機をかけ、家具や床を拭かないといけない。
すべて、夫の機嫌を損ねないようにするためだ。
広美は、安物でデザイン性は皆無の防寒素材の分厚いダウンジャケットとズボンにマフラー、マスク、ニット帽、防風素材のごわごわした手袋、薄汚れたブーツという、25才女子のきらめく若さも女らしさもすべて失った格好で、サビかけてギシギシ鳴る玄関ドアから寒空の下に出た。
家からスーパーまで徒歩40分も離れているため、しっかり防寒していかないと辛いのだ。
さっきまで出ていた太陽は灰色の雲に隠れ、真っ昼間だというのに町は暗い。
「……さむっ」
(一昨日も昨日も、今日も明日もその先も、ずっと寒い。春が遠すぎるよ)
ポケットに手を入れ、寒さに背を丸めて自転車置き場へ向かう広美の後ろ姿は、20代女子とはほど遠く、まるで疲れたおばさん主婦のようだ。
広美と夫の忠史が暮らす、✕✕県の片田舎にある築40年エレベーターなし4階建ての古びたマンションは、駅やスーパーなどのお店からことごとく離れている。
だが、駐車場代や維持費がかかるため、車は持っていない。
買い物などの日常生活が不便だ。
しかし、電動自転車の購入はもちろん、さびついてこぎにくくなった古い自転車の買い替えも、節約家の夫が反対する。
夫に渡される生活費は、わずかな額しかない。
そのため、広美は新しい自転車やスマホを買うためのへそくりどころか、趣味のマンガ本や服を買うのも厳しい状況だ。
私は主婦だから、仕方ない──。
広美は、ずっとそう自分に言い聞かせている。
広美が結婚したのは、22才のときのことだ。
それからというもの、広美の生活は一変した。
②冷めきった夫婦生活
片田舎に暮らす25才の主婦・広美は、夫の忠史との夫婦仲が冷え切っており、夫が広美に日々きつく当たることに悩んでいた。
そんな広美の唯一の癒しは、SM動画を見ながら自慰に耽ることだった。
22才で結婚する前の広美は、ごく普通に食品工場で働き、休日はドラマや本、マンガなどの趣味を楽しんだり、友だちとお茶をしたりしていた。
そんな中、マッチングアプリで出会ったのが、5歳年上の忠史だった。
友だちがアプリで彼氏ができたと聞き、良い出会いがあればと、登録したのがきっかけだ。
公務員で堅実な性格の忠史は、仕事に真面目、綺麗好きで清潔感もあり、広美は好印象を持った。
忠史は、広美の優しく控えめで、丸顔に奥二重で口と鼻がちょこんと小さい、一見すると地味だがよく見ると可愛らしく、健康的な肉付きに好意を持ち、猛アタックした。
交際し半年が経つと、忠史からのプロポーズを受け、広美は結婚した。
広美には、両親も親戚もいない。
父は、幼い頃に離婚したきり。
女手一つで育ててくれた母は、広美が成人した年に病死した。
祖父母もすでに亡くなっている。
若く未熟なうちの結婚に、広美は不安もあった。
同時に、身寄りのない広美は、安心できる家庭を持ちたいとも感じていた。
忠史のプロポーズでそれを強く実感し、若くしての結婚を決めた。
入籍と同時に、今のマンションでの同居が始まった。
忠史の希望で、広美は仕事を辞めた。
家庭を大事にしたかった広美は、主婦になることに迷いはなかった。
優しかった忠史のモラハラが始まったのは、同居して1ヶ月ほど経った頃からだった。
「棚にホコリが残ってる。掃除もちゃんとできないのか」
「味が濃い。野菜も少ない。もっと料理の勉強をしろ。お前は本当に無能のバカだな」
などと、仕事から帰って来た途端、険しい顔で広美を責め立てる。
束縛も強く、どこで何をしていたか根ほり葉ほり聞かれる。
広美は不器用なりに、一生懸命家事をやっている。
料理は苦手だが、普通程度にはおいしいものを作れるし、家もきれいに整理整頓している。
だが、神経質で節約家過ぎる忠史の精神攻撃はどんどんひどくなるばかり。
最近は、広美に注意するだけでなく、怒鳴ることも増えた。
広美は、自由に使える時間もお金もなくなり、夫の機嫌をうかがいながら、怒られないために家事労働をするだけの毎日になった。
自分の家なのに、夫がいると、常に見張られているような緊張感でビクビクする。
──交際中は、楽しく過ごしていたのに。
結婚前の普通に優しかった忠史の姿は、もう思い出せないほどだった。
夫婦のセックスは、もう1年以上ない。
淡白な夫が求めてこなくなると同時に、広美も日頃の精神的苦痛から、夫を受け付けなくなっていた。
(今日の特売品は、何だったかな)
自転車でスーパーへ向かいながら、広美は今日の献立を考える。
(ええと、今日は月曜日だから、お魚が安いはず。
今日は焼き魚と、この前の割引セールで買った葉物と根菜がまだ余ってるから、野菜炒めにすれば少しお金が残るはず。
久しぶりにこっそりデザートでも買おうかな。
……ああ、そういえば、明日あたり生理がくるはず)
生理中でも、この寒さの中、明日も明後日も買い物へ行かなければならない。
広美の胸がどんより曇る。
体が辛いとき、たまに家事を休みたくても、夫が手伝ってくれるわけもない。
「俺は仕事してるんだから」
「俺が稼いだ金だからな」
こんなセリフを日常的に浴びせられすぎて、何回言われたかももう忘れてしまった。
せめて、食事をお惣菜やお弁当にしたくても、片田舎の数少ない惣菜店は味も微妙。
そんな食べ物を食卓に出して、怒られないわけがない。
ネットスーパーも、割高な商品が多く送料もかかるため禁止されている。
食洗機や乾燥機の購入も「高い。主婦なんだから、それくらい自分でやるのが当然」と反対された。
家事代行サービスの利用なんて、許されるわけがない。
それに、地方は家事代行会社も少なく、遠いので料金も平均より高い。
(でも、今日はケーキでも買って食べちゃおう。スーパーのだけど)
こうして、広美は毎日重い自転車をこぎ、山道を行き来する。
整備されていない田舎道は坂道も多い。
冬は寒さに凍え、最近の異常気象の夏は熱中症寸前になる。
「うっ……寒いっ」
ビュービューと、刺すような冷風が追い打ちをかける。
感染予防というより防寒のために装着したマスクの下で鼻水が出そうになる。
ブーッ! ブーッ!
突然、ポケットのスマホがけたたましく鳴り出した。
極寒の中自転車を止め、スマホを取り出す。
『お義母さん』と表示された着信中の画面を見て、ハア、と思わずため息が漏れる。
(よりによって、こんな寒いところで……でも、出ないと後で面倒だから、今出るしかないのよね)
手袋を外し、キンキンに冷えたスマホを耳に当てる。
「はい、広美です」
『広美さん、あなた、今どこにいるの?』
「……✕✕スーパーへ、夕飯の買い物に行くところです」
『あら、ちょうどよかった。ちょっと、鍋を買ってきてくれない?』
「鍋、ですか? ……お肉や野菜は、何がよろしいでしょうか」
『違うわよ、料理を煮るための鍋よ鍋。ほんと、広美さんて物わかりが悪いのねえ。これだから高卒の子って嫌だわ。地頭が悪すぎるのよ』
「すみません……」
広美は息が詰まり、呼吸が苦しくなる。
広美のことなど気にかけることなく、姑は話し続ける。
『あのね、夕飯を作ろうと思ったらうちの鍋の取手が壊れちゃってて、困ってるのよ。スーパーに売ってる鍋ならどれでもいいわ』
「……わかりました、鍋、買って、持っていきます」
『あ、そうだ。夕飯、広美さんの言う通りお鍋もいいわね。寄せ鍋がいいかしら。ついでに寄せ鍋の具材も買ってきてもらえると嬉しいわ。ほら、私、膝が悪いじゃない』
「寄せ鍋ですか……具材は、何が……」
『ええとね、鍋の素と、牛肉と、白菜と、大根と……』
重くてかさばるものばかりだ。
だが、断ると、ネチネチとお説教が始まりさらに面倒なことになる。
定年退職する前は教師をしていた夫の母は、息子に厳しい。
が、嫁にはもっと厳しい性格をしている。
広美は、頻繁に小間使いのような用事や買い物を言いつけられている。
にもかかわらず、姑はかかったお金を渡してはくれない。
(今日のデザートは、諦めるしかないか……)
ささやかな楽しみもなくなった広美はトボトボとスーパーへ向かう。
中高年客で溢れる店内で、夫と姑に怒られないよう、言いつけ通りの物を1つ残らず確認しながら買う。
大きな鍋は自転車カゴに入りきらず、仕方なく肩にかけ、姑の家に向かう。
重い荷物と風でフラフラして、今にも倒れそうだ。
その横を、車がビュンビュン走っている。
フラフラ走るこの自転車を、いっそ轢いてくれてもいいかも──
急にそんな考えが広美の脳裏をよぎったとき。
強風でバランスを崩しそうになり、自転車が大きくふらついた瞬間。
ゴオッッ!
大きなトラックが真横を通過した。
「おい! 危ねえだろ! どこ見て走ってんだよボケ女!」
トラックの運転手が去り際に広美を怒鳴る。
(……本当に、私って、ダメだな。知らない人にまで迷惑かけて、怒られて。だからダメなんだ。相手を怒らせるんだ)
バカ、無能、役立たず、何もできないくせに……
身近な人に毎日かけられる言葉がぐるぐると頭の中に渦巻く。
大荷物を落とさないよう、のろのろと姑の家へ向かう。
「遅かったわね、広美さん。一体何してたのかしら? ……あら、おかしいわね、頼んだ牛乳が入ってない。また買い忘れたの? あなた、本当に物覚えも悪いわよね。仕方ないから、明日でいいわ」
姑は玄関に出た途端、眉間にシワを寄せ、到着した広美をくどくど叱る。
「申し訳、ありません……明日、またお届けしますので……」
夕暮れの凍えるほどの強風が吹く長い山道を、広美は再び自転車をこいで進む。
翌日の午前中。
夫を見送り、掃除を済ませた広美は今日も1人、SM動画の前で身体をまさぐる。
性経験の浅い広美がSMに興味を持ったきっかけは、ある青年マンガだった。
③モラハラ夫に虐げられる日々
広美が、SMに興味を持つきっかけになった青年マンガ。
それは、家事の合間に、スマホで無料試し読みのマンガの中から見つけた『ナナとカオル』というタイトルの作品だ。
恋愛マンガだと思い読み始めたこのコミックは、実は、SMを通じて若い男女が想いを育む内容だった。
S男子がM女子に施す、拘束や緊縛などの、妖しく淫靡なSMプレイ。
首輪や手枷、足枷などのSMグッズ。
黒や赤のセクシーなSM衣装。
美しい絵柄で丁寧に表現されたその内容に、広美は一気に引き込まれた。
読んでいる最中、息詰まるほどの熱のこもったプレイに、広美は胸が高鳴り、身体が熱くなるほどだった。
試し読みでは満足せず、夫に内緒でやりくりしたお金で全巻購入しスマホで読んだ。
こうしてSMに魅了された広美は、SMの動画も観るまでになり、熱くなった身体を慰めるようになった。
真冬の雨が降り注ぐ極寒の夜。
ガチャッ、バタン!
仕事から帰った夫が、険しい顔で乱暴に玄関ドアを閉める。
「……おかえりなさい」
今日は一段と機嫌が悪いようだ。
仕事で何かあったのだろうか。
険悪な雰囲気に、広美の心臓がバクバクと嫌な鼓動を打ち始める。
「早く、飯の準備は」
「シチューができてるから、今すぐ温めるね」
「またか。本当、いつも簡単なものばっかりだな。それに、給湯器の電源がつけっぱなしだ。まさか、お湯で皿洗ったのか?電気代がまた上がったから、風呂の時以外は切っておく約束だっただろうが」
「……ごめんなさい」
「なんでお前は、こんなに簡単な約束も守れないんだ。主婦のくせに家のこともしっかりできないのか」
──夫の言う通りだ。本当に反論の隙もまったくなく、すべて彼の言う通り私がダメなのだ。
主婦なのに、色々と抜けていてズボラで気が利かなくて、ダメだから。
「おい、何ボケッとしてる。ウォーターサーバーの水もなくなってるだろ。気づいてないのか? いつ地震が来るかわからないから常にストックしておけと言ったよな」
「それは、今日買いに行こうと思ったら、お義母さんに呼び出されて……」
「言い訳するな。……おい。ここ、蛇口が壊れてる。お前が壊したのか」
いつも以上にヒートアップする夫が、ヒビ割れたウォーターサーバーの蛇口を指差し強い口調で言う。
「え、いや、私は壊してない、最近水道水しか飲んでないし」
「何だお前。俺に口答えするのか」
「べつに、そういうわけじゃ」
「いい加減にしろ!」
ガシャンッ!
「きゃあっ!」
突然、夫がテーブル上のコップを床に向かって投げた。
割れたコップの破片と麦茶が床に飛び散る。
これまで、怒鳴られることはあったが、物を投げられたことはない。
注意され反省しかけていた広美だったが、大声と物を投げつけられた衝撃で、恐怖でいっぱいになる。
怖くて動けないなんて、ドラマの中だけの演出だと思っていた。
が、今の広美は恐怖で声も出ず、指1本動かすこともできなくなっていた。
「さっさと片付けておけ!」
「は、い……」
なんとか体を動かして床を拭き、雨の中、割れたコップをゴミ捨て場へ持って行く。
(家に、戻りたくない……)
どしゃ降りの震えるほどの極寒の中だというのに、家の中よりも外にいるほうがまだいい。
(けど、早く戻らないと、何してるんだって、また怒られる)
これまで、辛く当たられても、夫は外で働いて疲れているのだからと、広美は献身的に尽くしてきた。
(でも、もう、無理かもしれない)
離婚。
そんな2文字が頭をよぎる。
けれども、一歩を踏み出せる気がしない。
経験したことのない離婚の準備や、その後の生活、夫の反応……色々なことが怖いのだ。
(これ以上、傷つきたくない)
離婚など切り出したら、夫に罵詈雑言を浴びせられるのは確実だ。
広美は今の生活のままでも傷ついている。
が、離婚でもっと傷つくことを言われたとき、ただでさえすり減ったメンタルがこれ以上耐えられる自信がなかった。
(どれだけ私は、弱いんだろう)
結婚前の広美は、自分が精神的に弱いと思ったことはなかった。
しかし、夫や姑に怒られ続け、毎日狭い世界で家事だけをするうちに、広美の心は弱っていった。
これまで広美は、自分よりも他人を優先しながら、平和に生きてきた。
ところが、家庭でストレスを受け続ける日々は、そんな広美の穏やかな心さえも壊しかけていた。
(このままではまずい。どうにかしないと……)
翌日。
離婚についてネットで調べていると、夫の行為はモラハラなのかもしれない、と広美は思った。
(でも、私にも悪いところはあるわけだし……モラハラとも言い切れないかもしれない)
友人に相談してみようか。
しかし、広美は早くに結婚し、地元から遠くへ引っ越したため、友人たちとは疎遠になっていた。
それに、恋人探しや飲み会でキラキラした毎日を送っている友人たちに、結婚生活の暗い話などできない。
モラハラなんてワード、結婚に夢を持つ彼女たちの前では出せない。
そう思いながら検索していると、夫婦問題の無料相談サービスが目にとまった。
(ここなら、話せるかもしれない)
勇気を出して、電話をかけてみる。
『はい、✕✕相談サービスです。ご相談ですか?』
すぐに女性スタッフが電話に出た。
たまたま空いているので、このまま相談できるという。
『25才、主婦の方ですね。具体的に、どのようなことでお悩みですか?』
「あの、結婚してから、夫にかけられる言葉や要求が厳しくなっていって。この前、特に強く怒られたとき物を投げられて、私、すごく怖くて、もう無理かもと……」
『それは典型的なモラハラです。それで、離婚ですね。あのね、残念ですけど、モラハラは法律上の離婚原因にはならないんですよ。それでも離婚する場合は✕✕の手続きがあって、協議離婚で解決できなければ調停、裁判。弁護士を雇う場合は……、慰謝料は……』
なんだか、頭が追いつかない。
夫とは離れたい。
でも、なんだか今はもう、考えるのをやめたい。
『……あなた、聞いてますか? あのねえ、もっとしっかりしないと、離婚後に自立した生活をしていけませんよ。あなたみたいな主婦は、働いてる女性よりもただでさえ立場が弱いんですから』
「すみません……」
『とりあえず最後まで説明しますよ。ええと、協議離婚で必要な書類は✕✕で……』
相談が終わり電話を切ると、広美はぐったりしていた。
(なんか、もう、しんどい……ちゃんと考えなくちゃいけない、しっかりしなきゃいけないのはわかってるけど、なんか、もう、何も考えたくない)
もう、嫌だ。
一旦、この現実から離れないと、広美の心は取り返しのつかないところまで壊れてしまいそうだった。
(とりあえず、今日も、あの動画を見よう……)
現実から、逃げたい。
そう思っていたとき。
あるサイトにたどり着いた。
それは、SM動画のサイトで紹介されていた、SM専門のマッチングサイトだった。
黒と赤を貴重としたSMっぽさもありながら綺麗なデザインのそのサイトでは、様々な年齢の様々な男女が、出会いを求める書き込みをしていた。
──誰でもいい、話したい。
少しでもいいから、日常から離れたい。
そんな思いから広美は、『どなたか、お話しませんか』という短い内容を勢いで投稿した。
ハンドルネームは、SMに興味を持つ入口になったマンガ『ナナとカオル』から取った薫子という名前にした。
投稿から1時間後。
広美が、せっせとお風呂場の掃除をしている最中。
『薫子さん、僕でもよければお話しませんか。他愛のない雑談でも、どんなことでも、気軽に話しましょう』
マコトという名前の男性からそんな返信が、スマホに届いた。
④S男性の驚きの正体
夫や姑や迷惑メール以外からの連絡は久しぶりで、なんだか心が弾む。
『メッセージありがとうございます。嬉しいです。最近、本当に寒いですね』
何を話そうか迷っていたら、広美はそんな当たり障りない世間話を返していた。
『わかります、去年よりも寒い気がしますね。薫子さんは、体調を崩したりはしていませんか?』
すぐに返事がきた。
身体を気づかう言葉をかけられるのは久しぶりで、胸がじんとする。
『特に具合が悪いわけではないんですけど、寒さが身にしみて、つらいと思うことが増えたかもしれません』
『それは心配ですね。寒さには、ショウガ湯が良いですよ。昔、ハチミツ入りのものを祖母が作ってくれたのを思い出します』
マコトからのメッセージで、広美が小学生の頃に亡くなった祖母の優しいまなざしを久々に思い出し、心が和む。
(そういえば、この前豚肉のショウガ焼きを作ったときのショウガの残りがあったはず。今夜は、それでハチミツショウガ湯を作ろう)
虚無感の中、家事だけをしなければならない今日1日に、ささいな楽しみができ、少しだけ光が差した気がした。
『あのサイトに投稿していたということは、薫子さんもSMに興味があるのですか?』
その後もメッセージをやり取りするうち、マコトがそう聞いてきた。
SM専門のマッチングサイトに書き込んだのだから、当然の流れだ。
しかし、自分のSM嗜好について誰にも話したことがなかった広美は、少し躊躇った。
どこからどう話せばいいのかもわからない。
だが、他愛のない雑談にもきちんとした文章を返してくれるマコトになら、話してみたいと思った。
『私は、SMの経験はまったくないのですが、興味があって。夫はいますが、SMをする関係にはありません』
ずっと秘めていた嗜好を他人に打ち明けたことで、広美はまったく新しい世界の扉を開いたような感覚になった。
『そうなのですね。話してくれてありがとうございます。こういう話って、けっこう勇気がいりますよね。
僕は昔、恋人兼SMパートナーのような相手がいました。その方と色々なことを試すうちに、縄の練習もするようになったんです。
向こうの海外転勤で別れてからは、ずっと仕事に打ち込んでいましたが……』
マコトは、広美の話に丁寧に返事をくれる。
少なくともメッセージをやり取りする上では、親切な人柄だと感じた。
『私は、家庭がうまくいっているとは言えなくて……』
いつのまにか、広美も自分のことや家庭の悩みを話していた。
『それは、本当に大変なことと思います。打ち明けてくれてありがとう。まずは、薫子さんの身体が心配です。どうか、無理だけはしないように……』
広美のことを気づかう長めのメッセージを、忠史がいない家事の合間に何度も読み返した。
写真を送ってもらうと、横顔で映るマコトは輪郭がシャープで色白、すらりとした一重と鼻筋が綺麗で目元には40才らしい皺が少し覗く男性だった。
長めの黒髪を後ろでくくった特徴的な髪型をしている。
わずかに垂れた前髪に大人の色気を感じる。
初めて見る顔ではないような気がする。
が、何かのドラマで見た俳優と似ているだけかもしれない。
住んでいる場所は近くもないが、そう遠くないことがわかった。
会いませんか、という流れになるのに時間はかからなかった。
「高校時代の友だちに、会いに行かせてもらってもいいでしょうか」
比較的機嫌の悪くないタイミングを狙い、忠史にそうお願いした。
マコトから切り出された逢瀬の話を、広美は受けることにした。
家では、相変わらず忠史からのモラハラが続いている。
先日コップを投げつけられて以来、広美にかけられる罵詈雑言はさらにひどくなっていた。
広美は、何でもいいから、外に出る理由が欲しかった。
買い物でいつものスーパーへ行くのはもう嫌だった。
この家以外の、普段とは違う外の空気を吸いたかった。
マコトは比較的仕事に自由がきくため、平日の昼間でも会えるという。
とはいえ、姑が急に家に来ることがあり、長時間不在だったことを夫に知られると面倒だ。
1人で出かけるには、理由を準備する必要がある。
1人ランチやショッピングでは「そんな無駄金使うな」と忠史が言うのは目に見えている。
身寄りのない広美に実家はなく、帰省の理由は使えない。
そこで、久しぶりの友人に会う口実なら、外出を許してもらえるかもしれないと考えた。
忠史は、掃除と夕食の準備はすること、夕食の時間までに帰ることを条件に、渋い顔をしながらも広美の外出を許可した。
粛々と日々の家事をこなすうち、マコトとの逢瀬の日がやってきた。
広美はタンスの奥から久々に出した、膝丈スカートの大人可愛いワンピースに着替えた。
さらに、ワンピースの下には、今日だけはノンワイヤーの無地の下着ではなく、可憐な花の刺繍とワイヤー入りの美胸効果のあるピンク色のブラジャーとショーツを履いた。
楽で地味以外の下着を着るのは久しぶりで、タイトなセクシー寄りのショーツが入るか心配だったが、体型は変わっていなかったようで、すんなり履けた。
「それじゃあ、行ってきます」
誰もいない部屋にそう告げ、外に出る。
あれだけ怯えていた夫を欺いて、ネットで知り合った男に会う。
もし夫が知れば、激怒どころでは済まないだろう。
それでも、今外へ出て誰かに会わないと、今夜屋上から身投げでもしそうな自分が自分で怖かった。
人生をここで終わりにはしたくないが、突発的にそちらへ吸い寄せられる自分を制御できる自信が広美にはなかった。
待ち合わせ場所は、片田舎の人の少ない場所にある、レトロな喫茶店だ。
早めに着き、ミルクティーを飲む広美の前に、入店してきた男性が近づく。
「あのう、あなたが薫子さんですか? 僕、マコトです」
目の前に現れたマコトを見た途端、広美は固まってしまった。
絶対に、どこかで会った覚えがある。
写真を見たときよりも強くそう感じる。
いったい、どこで会ったのだろう。
記憶に思考を巡らせる。
「……天野先生?」
「え、どうして、僕のことを知ってるんですか?」
「私が中学の頃、通ってた塾の講師をしていましたよね? たしか、数学の先生でした」
驚き顔のマコトが、少し困惑した様子で言う。
「たしかに、僕は数学講師をしています。まさか、生徒さんだった? 申し訳ない、昔の生徒さん、特に女性は大人になると見た目がかなり変わっていることがあって……ええと」
マコトは驚き顔のまま、困惑しながら言う。
「私、10年前に✕✕塾に通っていた、三田広美です」
「ああ、たしかに僕は✕✕塾で教えていたことがありました。ただ、三田さんという名前を、すぐには思い出せないな。すまない、大勢の生徒がいたから」
「仕方ないです。たしか、夏期講習を何度か受けただけなので」
「夏期講習か……いや、まさか、生徒さんだったなんて」
黒いセーターにグレーのパンツという年相応のシックな服装に長めの髪を後ろでひとくくりにした天野は、教壇に立っていた30才の当時はいつもスーツ姿で、髪も短かった。
当時よりも少し皺が増えているが、良い年齢の重ね方をしている大人の男性といった風貌だ。
広美と天野は紅茶を片手に、10年ぶりの会話をした。
当時、中学生だった広美は、数学が苦手だった。
が、学校の授業とは違い、天野の数学の授業は苦痛ではなかったことを覚えている。
うまい例え話を使った天野の教え方は、広美のような文系人間にもわかりやすかった。
天野は、優しい講師だった。
しかし、優しいだけではなく、塾講師として適度な厳しさもあり、テスト前は頼りにする生徒も多かった。
さらに、授業の最中、おそらく生徒を和ませるためにしていた雑談も面白く、どの生徒にも慕われていた。
「天野先生は、今も講師を続けているんですか?」
「今は、自分で立ち上げた塾の経営を主にしているよ」
「そうだったんですか。ご自分で経営されてるとは、すごいですね」
天野と話すうち、受験を控えたある日の授業の休み時間のことを広美は思い出した。
他の生徒たちと天野が雑談をする中、普段からあまり目立つほうではなく1人で机に座っていた広美のことを天野は忘れずに気にかけ、話しかけてくれたのだ。
『三田さんは確実に成長してるから、大丈夫。きっと合格するよ。他の人と比べることははない。周りを気にせず、自分のペースで進むのが良いと思うな。みんな、それぞれ違う速度で成長しているんだから』
天野のそんな言葉に、受験の不安が和らいだことを覚えている。
(私は人前で話すのが苦手だから、授業中、当てられると緊張しちゃって、中々答えられなかった。でも、天野先生は絶対責めずに、自然に授業を進めてくれたのよね)
しばらく話していると、店内にお客が増えてきた。
そろそろ店を出たほうがいい雰囲気だ。
「……それにしても、まさか昔の生徒と、あのようなSMのサイトで会うことになるなんてな。なんだか、本当に申し訳ない。今回のことは、なかったことにしたほうがいいですね」
天野が席を立ち、会計に向かう。
「三田さん、これからもどうかお元気で。それでは」
そう言うと、天野は店を出ていった。
1人になったテーブルで、広美はティーカップを握りしめる。
まだ、帰りたくない。
もっと話したい。
でも、私は結婚している身。
ここで追いかけたら、もう後には引けない気がする。
夫や姑にバレたら、大変なことになる。
でも、今日だけはもう、自分を抑えたくない──
「待ってください」
広美は喫茶店を走り出て、天野を呼び止めた。
⑤はじめての縄
「天野先生、もう少し、話せませんか」
喫茶店から走り出てきた広美を、天野が驚いた顔で見つめる。
広美は、自分が別人になったような、フワフワした感覚になっていた。
何事にも消極的だと思っていたこれまでの自分は、あのマッチングサイトに書き込みをした時点で消え去っていた。
「でも、三田さんは元生徒だし、元講師となんて、これ以上話すこともないでしょう?」
「生徒だったのは、もう10年も昔のことなので。先生さえよければ、もっとお話したいです」
「……ここでは寒いし、話しづらいね」
2人は、冬の風が吹きすさぶ田舎道を歩いていく。
寒さから逃れて2人が入ったのは、さびれたカラオケ店だった。
片田舎のため大した店がなく、1番近い店はここだけだった。
都会とは違って狭く、タバコの匂いの染み付いたカラオケの個室で2人きりになる。
いつも教壇に立っていたあの天野先生が、今は、肩が触れるほど近くにいる。
非日常感に、広美の心臓が妙な鼓動を打つ。
頼んだホットココアが来ると、もっと話したいと言ったものの何をどう話せばいいかわからない広美に、天野が優しく話し始める。
「三田さん、いや、なんだかこの呼び方は恥ずかしいな。薫子さんと呼ばせてもらおうかな。家では、その、旦那さんと、けっこう大変みたいだったけど」
「あ、はい。結婚してから仕事も辞めて、生活が色々と変わってしまって」
「専業主婦だって、大変だと思う。いや、何も知らない僕が言うのもなんだけど、主婦のほうが大変なような気がする。休日という休日もないだろうし」
「たしかに、そうかもしれません。でも、私が不器用で、中々スムーズに家事をこなせないので……。天野先生は、ご結婚は?」
「結婚は一度もしてないね。結婚しそうになったことはあるけど、相手の海外転勤で別れてしまったから」
「元恋人の方とSMをする関係にあった、とおっしゃっていましたよね」
「ああ、そう、その相手だよ。……そうだ、薫子さんは、緊縛に興味があると言っていたよね」
天野がスタイリッシュな黒いバッグを開き、何かを取り出した。
「それ、は……縄、ですか?」
「そう。まだ誰も使っていない、新しい麻縄だよ」
ひとまとめにされた1本の薄茶色の縄を、天野は愛でるように撫でる。
「僕は、Aという縄職人の縄が好きでね。彼が、縄の編みからなめしまで丹精込めて作り上げた色とりどりの縄の感触が素晴らしくて、縛る相手がいなくても、つい買ってしまうんだ。だから、今日は使わないだろうけど、同じ趣味の相手に僕のコレクションを見せびらかしたい気持ちもあって、一応持ってきたんだ。こういう機会は、あのようなサイトでもなければめったにないからね」
「すごい、本物の麻縄、初めて見ました」
突然見せられた本格的なSMの道具に、広美は驚く。
「この縄はね、鳴くんだよ」
「縄が鳴く、ですか?」
「そう。ほら、こんなふうに」
天野が縄を絞るように握ると、ギシ、ギシギシ、ギュウウウと縄が音を立てる。
「すごい……」
「どの縄も鳴くけど、僕はこの縄の鳴き方が特に好きでね。これが、熟練の縄職人、Aの縄だ」
手渡された縄を、広美はじっと見つめる。
干し草のような縄の匂いが新鮮に感じる。
「これ、ほどいてみてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
ほどいた縄が、広美の膝上にはらりと広がる。
──こんな、ただの一本の縄で、どうやって人間の身体を縛るんだろう。
「あの。……この縄で、縛ってもらえませんか」
どのようにして縛るのか、知りたい。
そんな気持ちから、広美としては大胆すぎる言葉を口にしていた。
今の広美は、夫や姑に怯えながら家の中で小さくしている普段の姿とはまったく違う、別の女になっていた。
「薫子さんを? この縄で、僕が縛るということ?」
きょとんとした顔で聞く天野に、広美は真剣な目で答える。
「はい。縛られて、みたいです」
「──わかった。僕でよければ、縛らせてもらうよ」
広美の言葉が冗談ではないと悟った天野は、決意したように縄を手に取る。
「縛られるのは、本当に初めて?」
「はい。初めてです」
「それなら、少しでも痛いとか、やめてほしいと思ったらすぐに言って。すぐほどくから。緊縛は安全第一だからね」
「わかりました」
「では、両手を後ろで組んで」
古びたカラオケの個室に、広美の放つわずかな緊張感が漂う。
背中に回したブルーグレーのワンピースの手首に、ぐるりと縄がかけられる。
さっそく、手首が拘束された。
ふわっ。
目の前に縄が落ちてきたかと思うと、
「……!」
ぐい、と後ろに引き寄せられ、背後から抱きしめる形で、広美の胸元の上部を横切る縄が
1周、2周と巻かれた。
かつて、チョークを持ち黒板に向かって難しい数式をすらすら書いていた天野の手が、今は広美の身体の上をすべり、縄を巻き付けていく。
天野は迷いのない手つきで、女体に縄を綺麗に施していく。
続いて、縄を調整するように、背中で何やら結ぶ動きが続く。
──~~♪
隣の部屋からは、くぐもった音の津軽海峡冬景色が聞こえてくる。
平日昼間のさびれたカラオケは、年配のお客がほとんどのようだ。
一方、壁1枚を隔てたすぐ横のこちらの部屋では、男女の麻縄緊縛が行われている。
隣室との大きすぎる差に、広美は頭がくらりとした。
シュルリ。
今度は、胸の下の部分を縄が通っていく。
再び、1周、2周と巻かれる。
上半身を圧迫され、わずかに呼吸が苦しくなる。
余った縄を、背中を通る縄にぐるぐる巻くと、天野の手が止まった。
「……似合うね」
「、っ」
もう、両手を上下左右に動かしても、びくともしない。
胸元を囲う縄によってバストがふっくらと強調され、胸が1サイズほど大きくなったかのように見える。
いやらしい、それ以外の言葉が見つからない光景だ。
綺麗に巻かれた縄が、女体の秘めていた色っぽさを引き出し、官能的に仕立て上げている。
「身体に、痛いところとかはない? 大丈夫かな」
広美の身体に巻き付いた縄目に優しく触れながら天野が言う。
「はい、大丈夫、です」
「薫子さん。あなたには、僕の大好きなこの縄がよく似合う」
大丈夫のひとことを答えるだけでいっぱいいっぱいの広美の不自由な身体を、ぎゅうぎゅうと縄が締め付け続ける。
「まさか、たまたま再会した人に、この縄がこんなに似合うなんて」
「、っ」
身動きのできない広美を見つめたまま、天野が話す。
縛られている息苦しさと、緊縛姿を褒められた動揺で、広美の呼吸がますます浅くなる。
「偶然が産んだ奇跡だ。本当に、美しい」
もう長いこと言われていなかった褒め言葉を突然与えられた広美は、もう言葉も出なくなっていた。
──拘束されて、動くことすらできない私を、天野先生は褒めてくれた。
先生は、無能の私を受け止めてくれる。
縛られて、なんにもできない私でも、いいんだ。
拘束されているのに、広美は幸福感と解放感に満ちていた。
……ブーッ! ブーッ!
静まり返った室内で、突然、広美のカバンの中のスマホが震え出す。
「!」
「薫子さんのスマホだよね。電話かな。カバンから出したほうがいいかな」
「お願いします」
動けない広美の代わりに天野がカバンから取り出したスマホの画面には『お義母さん』の表示が出ている。
「あ、えっと、」
「縄、ほどくよ。そろそろ、帰ったほうがいい時間かな」
「はい、すみません……」
現実に引き戻され、広美の心に再びいつものモヤがかかる。
けれども、シュルシュルと服の上を縄が滑り、ほどけてゆく身体は惚けたままだ。
「、……」
スルリ。
最後の縄を取り払われてもまだ、広美の身体の火照りは消えなかった。
⑥夫への秘め事
カラオケ店を出た広美は、家に向かう帰路を歩く。
「帰り道、気をつけて。寒いから、帰ったら暖かくするといいよ」
そう言って帰って行った天野の口調は、相変わらず優しかった。
もちろん、こんなことは、ひと時の幻想だとわかっている。
天野だって、家ではどんな顔をするのかわからない。
それでも、天野との逢瀬と初めての緊縛で、広美のささくれた心がいっときでも癒やされた。
それがとてもありがたかった。
──プルルル、プルルル
しばらく歩いたところで、姑からの電話を折り返す。
電話に出た姑は、強い口調で話し出した。
『広美さん、電話にすぐ出なかったみたいだけど、何してたのかしら?』
「ちょっと、高校時代の友人に会っていたんです。もう帰るところです」
『あら、そんなふうに出歩いてて、家のことはきちんとできているのかしらね。ちょっと頼みたいことがあるから、帰る前にこっちに寄ってくれるかしら』
「……はい」
つい先ほど、天野に縛られて解放感に満ちていたばかりだというのに、今から姑に会うのは抵抗感が強い。
だが、断って、怪しまれでもしたらまずい。
広美は重い足を引きずり、義母宅へ向かった。
義母の用事を済ませて帰宅し、いつものように家事を終わらせた広美は布団へ横になった。
けれども、目を閉じても眠れない。
(……)
身体に縄をかける天野の長い手指と、穏やかな声が、延々と広美の頭に浮かび続ける。
これまで、緊縛の写真や映像を見ながら、自身が縛られた姿をイメージすることはあった。
が、どうしてもそれはリアルさに欠けていて、曖昧なものだった。
それが、今は、肌を覆うものを何も身に付けずに縛られ、縄の合間から乳房をさらけ出した自分の姿まで、まざまざと想像できる。
──縄からむき出した乳房に、天野の手が触れたら。
抱きしめられ、乳房を揉みしだかれたら。
感度の高まりきった乳首に触れられたら。
口づけられ、覆いかぶさる天野のものに、縛られたまま貫かれたら。
想像するだけで心臓が高鳴り、下半身がきゅんと疼く。
(──……)
たまらなくなって、パジャマの上から乳房に触れる。
ブラジャーを付けていない乳首が布越しに擦れ、どんどん感度が高まってゆく。
すぐ横の布団では、夫が寝息をたてている。
夫の隣で自慰をしたくはないが、もう我慢ならない。
こっそりすれば、ばれないだろうか。
天野の指が肌を這い回り、乳首をひねる様を頭に描きながら、広美は指で乳房の先端を刺激する。
服の上からでは物足りなくなり、パジャマのボタンを明け、先端に直接触れる。
「、……っ」
熱を持ち、尖った先端をコリコリ転がす。
今日、カラオケボックスで縛られたのと同じように、後ろに回した手を固定したまま天野の手で乳房を弄ばれる様をイメージしながら乳首を慰めると、快楽で先端がじんわり溶けていく感覚になる。
下半身は、先ほどからずうっと発火し続けている。
その存在を無視できなくなった広美は、パジャマの下の白い綿ショーツに指を忍び込ませる。
ショーツの中は、しばらく手入れをしていない茂みのほうまで、ヌメヌメした粘液で湿っていた。
性的興奮でふっくらした入口に指を当てると、大きくなって顔を出した陰核がすぐに触れた。
丸くぷっくりとむき出た陰核の頭を撫でると、びりびりと電気のように快感が走る。
「っ、」
中指を奥へ進める。
熱くぬめった蜜穴を硬いものが貫く感覚は、やはり女にとって極上の快感だ。
「は、ぁ……」
広美は熱い息を吐く。
「ウーン……」
突然、忠史がうなりながら寝返った。
広美は息を潜める。
が、すぐ横の忠史は眠り続けているようだ。
広美は快楽に潤んだ目を閉じ、今日、何度も肌に触れた、縄を結ぶ天野の指の感触を思い出す。
あの長い指が、そのまま下半身に滑り込み、奥をかき回す場面を思い浮かべながら、自分の指を抜き差しする。
「っ……」
そのうちに、貪欲な女の身体は、もっと巨大な快楽を求め始める。
縛られ、上半身の自由のきかない身体の下半身だけをいやらしく開き、濡れて膨れた秘部を天野の硬いものに貫かれる様を思うと、子宮が勝手に疼く。
縄で動けないのに、男の力で強制的に開いた両脚の中心部を突かれたら、一体どれほどの快楽なんだろう──。
眠る夫の横で、広美は火照り続ける性器を一心不乱に慰めた。
広美が夜な夜な繰り広げる淫らな妄想などつゆ知らず、天野からは他愛のないメールが届き続けた。
『僕は今、やっと仕事が休憩に入ったところ。今日も家事、お疲れ様』
『明日は雪が降るみたいだね。寒いから、暖かくしてね』
1日に何度か届く、雑談の中でも広美を気づかう言葉がさりげなく散りばめられた天野からのメールは、広美のモノクロの日々に差した一筋の光のようだった。
メールが届くと、胸が高鳴る。
不穏な家庭のことを一瞬でも忘れられる。
家事の合間に届くメールを、広美は心待ちにするようになった。
──天野先生に、会いたい。直接会って、顔を見て、側で話したい。
叶うなら、また、私を縛ってほしい。
広美の天野への気持ちは、日に日に高まってゆく。
だが、外出できそうなタイミングは中々やって来ない。
天野もそんな広美の家庭の事情を気づかってか、会う誘いをしてくる様子はない。
悶々とし続ける心と身体を、広美は相変わらず、スマホでSM動画を見ながら1人で慰めていた。
ある日の午後。
家事が一段落した合間に、広美はイヤホンをつけ、S男性がM女性を責める映像をいつも通り見ながら、性器を慰めていた。
イヤホンから音を聞くほうが、混じり合う男女の吐息が鮮明に聞こえてより臨場感が増すのだ。
その日も、手慰みに没頭するため、大きめの音量で再生していた。
緊縛された女性が宙に吊るされ、バチンバチンと男に鞭打たれて感じている。
広美が服の前をはだけ、スカートの中に手を入れようとしたとき。
「おい、何を観てるんだ」
「!!」
突然背後から聞こえた声に驚き振り返ると、後ろにいたのは、職場にいるはずの忠史だった。
「え、忠史さん、なん、で、ここに」
「家に忘れた資料があって、取りに帰って来たんだ」
「あ、そんな、そうだったの」
広美はイヤホンを外し、慌ててスマホの画面を消す。
が、もう遅かった。
「何だ、お前が観てたあの動画は」
「なに、って、何でも、ないです」
低い声で問いただす忠史の顔と声は怒りと軽蔑に満ちている。
広美は恐怖で心臓がバクバク鳴り、冷や汗が流れる。
また怒られると思うと、身体が軽いパニック状態に陥るようになっていた。
「俺に嘘をつくのか。何でもなくてあんなものを観るわけないだろう。お前は、やっぱり頭がおかしい。あんなものを観るなんて、異常者だ」
「そんな、私は、別に」
バアンッ!
忠史が戸棚を蹴り、暴力的な雰囲気に広美は縮こまる。
「前からおかしいと思ってたんだよ。お前は家事もろくにできないし、その上、こんな趣味まであるなんて。頭がおかしいんじゃないか? 最近は俺を責めるような態度も増えて、嘘までつく。どこまで俺を怒らせれば
気が済むんだ!」
忠史の理不尽な暴言に、広美に一瞬すっと冷静さが戻った。
今なら、言えるかもしれない。
勇気を出して、広美は口を開く。
「そうやって、いつも大声で怒られるから、私、怖くて」
本音を話せば、もしかしたら、夫に伝わるかもしれない。
何かが良い方向へ変わるかもしれない。
「ずっと辛かった。これでも一生懸命家事をしているのに怒られ続けるのも、いつもきつい言葉を言うお義母さんの用事を聞くのも」
初めて、本当の気持ちを打ち明けた。
「私、一回、冷静になってちゃんとあなたと話し合いたいの」
だが、広美の希望はすぐに打ち砕かれた。
「お前、また俺を責める気か。しかも、高齢で足が悪い母さんの悪口まで言うのか。俺を怒らせてるのはお前だ。お前が全部悪いんだってことに、早く気付けよ!」
「そんな、そんなつもりじゃ」
「お前みたいな女はしっかり反省して心を入れ替えろ。ああ、もう仕事に戻らないと。俺の邪魔ばかりしやがって」
バタン!
吐き捨てるように言うと、忠史は出ていった。
スマホを握りしめたまま広美は動けなくなり、涙も出なかった。
⑥若妻の決意
SMの趣味を、夫の忠史に知られた日。
「もう一度話し合いたい」と、広美は忠史に頼んだ。
だが、「お前が全部悪い」と忠史は言うばかりで、話し合いにならない。
翌日も、その翌日も忠史の態度は変わらない。
姑にも、電話で叱られた。
『忠史から全部聞いたわ。異常者。最悪の嫁よ』
そう言い、親子揃って広美を今まで以上に奴隷のように扱うようになった。
挙げ句の果てに忠史は、広美のスマホを取り上げようとした。
天野と連絡が取れなくなることだけは、嫌。
そう思った広美は、義母と連絡できないと用事をこなすのに不便だからと説得し、スマホの所持は許しを得た。
(夫は感情的に怒って、私の話に聞く耳を持たない。私だけを悪者にして罵り続ける。話し合いすらできない人と、この先やっていけるだろうか)
朝食の皿を洗いながら、広美は考えを巡らせる。
(夫が家で私に強く当たるのは、教師だった両親に厳しく育てられたことが関係しているのかもしれない。夫は、第一志望の大学に落ちて、家を追い出されたと言っていた。それに、夫も以前は私のように姑の小間使い
をさせられていた可能性もある)
厳格な家で育った夫に、寄り添いたい気持ちもある。
でも、こんなに怒られ続ける毎日に耐え続けたら、精神が壊れてしまいそうだ。
(夫も、毎日私に苛立ち続けて辛いはず。離れたほうが、互いのためかもしれない──)
それから、数日後の日曜日。
広美は、自宅から離れた✕✕県の結婚式場にいた。
友人の結婚式に参列するためだ。
遠方のため、泊まりがけの外出になる。
学生時代特に仲の良かった友人なので、受付の役目も頼まれている。
そんな大事な式とのことで、忠史も広美の外出を許し、久しぶりに遠くへ出かけられることとなった。
「本日は私たちの結婚式にお集まりいただきありがとうございました。これからはふたりで手を取り合って、明るく温かい家庭を築いていきます」
きらびやかな白いウエディングドレス姿で笑顔で挨拶をする友人に、会場の人々が拍手を送る。
「おめでとう!」
「お幸せに!」
(今の私は、結婚の幸せとはほど遠い状況になってしまった。これからのことを、しっかり考えなければ。友人とはまったくの別方向だけど、私だって前に進むのよ)
友人に拍手を送りながら、広美は決意が固まってゆくのを感じた。
披露宴が終わりに近づく頃。
「ねえ広美、そういえば、カナちゃん、出席してないよね」
隣の席の友人が話し始めた。
たしかに、新婦と仲の良かったカナという子が来ていない。
「ほんとだね、来てないね。何でだろうね」
同じテーブルの他の友人に広美が話を振ると、向かいの席の友人が沈んだ顔で言った。
「カナね、先月交通事故に遭って、今も入院してるんだって。命は助かったんだけど、リハビリがすごく大変みたいで……」
「えっ」
「そんな、知らなかった、そうだったんだ……」
皆が、次々と悲しみや戸惑いを口にする。
普段は忘れかけていた、人は突然事故などに遭うこともある事実を突きつけられ、広美はさーっと血の気が引いた。
そのとき、広美の頭に、ある人物の顔が浮かんだ。
それは、優しい声で話す、天野の顔だった。
(私だって、いつ急に事故や病気が降りかかるかわからない。死ななくても、カナみたいに動けなくなる可能性だってある)
カナの話を続ける友人たちの横で、広美はハンカチをぎゅっと握りしめたまま考え込む。
(今の生活から抜け出せないまま死んだら、天野先生にもう一度会わないままだったら、私、後悔しかない)
広美は、覚悟を決めた。
スマホを出し、天野にメールを打つ。
『今日、会いたいです』
遠方にいるのに会えるのかとか、どこで会うのかとか、そんなことは一切考えず、今の気持ちだけを書いたメールを勢いで送った。
(こんな唐突なメール、迷惑だと思われたら謝って、また改めよう)
──ブブブッ
数分後、スマホが震えた。
天野からの通知だった。
汗ばむ手でメールを開く。
『僕も会いたいです。今日、何時なら出られそうかな』
ざわつく披露宴会場で、心臓が飛び出そうになった。
時刻は夜になろうとしている。
地元方面へ向かう最終電車の時刻が、もうすぐ迫っている。
『私、今、✕✕県にいるんです』
『えっ、それは少し遠いね。そっち方面へ、僕も向かおうか』
披露宴の締めくくりの挨拶が終わると、広美は式場を飛び出した。
すっかり夜が深まった時間。
広美と天野は、ターミナル駅近くのラブホテルにいた。
新幹線の乗り換え駅周辺の週末の飲食店は、どこも満席か閉店で、ビジネスホテルも満室。
そんな状況もあり、2人は自然とそのホテルへ足を向けた。
「いきなり会いたいなんて言って、ごめんなさい」
白で統一されたオーソドックスな作りの部屋のソファに腰かけた広美は、すぐ横に座る天野に言う。
「いや、今日は仕事も休みだったから。それに、僕も、薫子さんのことが気になっていたから」
天野の言葉に、広美の心臓がドクリと跳ねる。
「髪型が、この前とは違うね。アップスタイルだ」
天野が近づくと、タバコの残り香が広美の鼻をかすめた。会う前に吸っていたのだろう。
10年前、天野の講義時間に古びた塾の教室で匂ったのと同じ、あの香りだ。
懐かしい。
休憩から戻ってきた天野から香るタバコの匂いに、中学生だった広美は大人の男を感じ、ドキッとしたことを思い出す。
「あ、今日は、友人の結婚式だったんです。本当は美容室でセットしてもらいたかったんですけど、ちょっと費用的に厳しくて自分でやったので、あんまりうまくできていなくて」
「そうだったんだ。それは大変だったね。でも、綺麗にできているよ」
髪を見る天野の指が、アップスタイルで露わになった広美の白いうなじに、そっと触れる。
「……縛って、ください」
やっと叶った逢瀬と、ふいに触れた天野の手の感触に広美はいても立ってもいられなくなり、そんな言葉を発していた。
広美の言葉に、天野は少し考え込んでから口を開く。
「薫子さんは、本当は、僕みたいな数年前にSMをかじった程度の中途半端な奴じゃなく、ちゃんとしたプロの緊縛師に縛ってもらったほうがいいんじゃないかな。よければ、僕が昔習いに行ってた緊縛師のサロンを紹介するよ」
「いえ、私、天野先生に縛られたいんです」
即答する広美を、天野は驚いた目で見つめる。
「他の誰でもない、天野先生がいいんです」
広美のまっすぐな言葉を受けた天野は、ソファから立ち上がり、出入口の荷物の元へ向かっていく。
──だめだったかな。
引かれてしまっただろうか。
悲観し始めた広美の元へ戻った天野の手には、赤い縄があった。
「これも、縄職人Aの縄だよ」
前回広美を縛った薄茶色の麻縄が、真っ赤に染色されている。
荷造りなどの日常生活ではまず使わない、M性癖の人間を縛るためだけに作られた官能的な色の縄だ。
「これから準備をする。縛りの妨げになるから、今日は、服を脱いでもらう」
「は、い……」
とっくに心は決まっていた広美は、ソファとベッドの間に立ち、ワンピースに手をかける。
とはいえ、10年ぶりに再会した元塾講師の前で肌を見せるのは恥ずかしさもある。
だが、もう引き返すつもりはない。
広美は、レースがあしらわれたベビーピンク色のブラジャーとショーツだけを身に着けた姿で天野の前に立った。
これから私、どうなってしまうんだろう。
期待と少しの不安でいっぱいの広美に、天野が言う。
「そのまま、そこで立ったまま、両手を上げて、頭の後ろで組んで」
言われた通り、降参するように掲げた広美の手首に、赤い縄が巻き付いた。
⑥二度目の緊縛
初めて縛られたときから、まるで取り憑かれたように焦がれ続けた天野の縄が、下着1枚で佇む広美の身体を縛り上げてゆく。
「……、」
服の上から縛られたこの前とは違い、縄を巻く天野の手が素肌に触れるたび、広美の心臓がドクリと跳ねる。
しかも、この場所は、前回の古びたカラオケの個室ではない。
広々としたベッドが鎮座する、ラブホテルの一室なのだ。
艶っぽい雰囲気が漂う場所での緊縛に、広美は25年間生きてきて初めて感じる高揚感に頭が痺れていた。
「薫子さんの身体は、適度にくびれていて、しなやかで、縛りがいがある」
「そうですか……そんな風に言われたのは、初めてです」
両脇を露わにしたポーズはただでさえ羞恥的なのに、上半身に巻き付く赤い縄がバストに食い込み、盛り上がった胸の谷間がパンパンに膨れた風船のようになっている。
スルスルと縄を操る天野の手が、不意に胸の側面に当たった。
「……っ」
(……たぶん、いや、絶対、私の乳首、立っちゃってる……)
ぎゅうぎゅうと縄が胸を締め付けるほど、息苦しさが増し、乳房の中心が熱を帯びていくのがわかる。
硬くなった乳首がベビーピンク色のブラジャー越しにわかってしまうのでは、と思うほどだ。
──恥ずかしい。そんないやらしい姿、天野先生に知られたら引かれてしまう。
そう思うほど、露わになった両脇に汗がにじみ、羞恥心がさらに増す。
広美は、掲げた両手を頭の後ろで固定し、バストをぐるりと縛り上げられた。
「痛いところは、ない?」
「は、い……」
天野の切れ長の目が、下着姿で縛られた広美の身体を見ている。
「薫子さん、貴女を少し、いじめてみたくなった」
「私を、いじめる、ですか……?」
「嫌だったら言って」
「え、っと、はい、っ!」
背後に回った天野の手が、無防備な広美の尻をそ、っと撫でる。
突然走った、微弱電流のようなくすぐったさに広美が身をよじった時。
──パシッ……!
「!」
天野の手が、広美の臀部に優しく振り下ろされた。
パチンッ! パチンッ!
広美が驚く間もなく、天野の手のひらが、連続してショーツの上から同じ場所をはたく。
「あ、っ」
広美の腰が、ひくり、と跳ねた。
叩かれているのに、嫌などころか、自然と熱い息が漏れ、身体が勝手に反応したことに広美は驚く。
縛りで高まった身体を打たれる行為は、広美に甘美な熱をもたらした。
ギシギシと軋む縄の締め付けが、一層強くなる。
「はあ、はっ」
柔らかい肌に食い込む縄の一筋一筋すべてが、天野の分身のようだ。
上半身を天野にきつく抱き締められている感覚に陥る。
スル、スル……。
臀部の左側を覆うショーツの裾が、ゆっくりと中央へたくし上げられていく。
「、!」
右側の布も、同じく中央へ寄せられる。
広美は、まるでTバックショーツを履いているかのような、臀部の割れ目以外を露出した羞恥的な格好になる。
若妻のすべすべした生尻の肉をめがけて、天野が平手を振り下ろす。
──バチッ、バシッ!!
「っっ……!」
天野の手が、身動きできない広美の、若い女に特有のぷりっと張りのある丸い尻を何度も打つ。
じんとした痛みが、背徳的な快感に変わって広美の全身にバッと花火のように広がる。
ショーツ越しに打たれるよりも、はるかに刺激が大きい。
家庭があるのに、自ら望んでいやらしい格好で縛られていることを罰するように打たれる尻の痛みにすら、感じてしまうなんて。
バチンッッ!!
「あ、っ……!」
尻を叩かれるたび、お前は罪深き淫乱女だ、と烙印を押されているような感覚になる。
今は、そんな烙印を押されるほど、罪深い行為に堕ちてゆくほど、身体がとろけそうになる。
両腕を上げた姿勢で緊縛され、立たされたまま、スパンキングで赤みを帯びた剥き出しの尻肉をひくつかせる女。
それが、これまでずっと控えめにおとなしく生きてきた広美の今の姿だった。
そんな広美の胸元に、背後から天野の手が伸びる。
赤い縄が囲うブラジャーのカップ上部にかかった天野の手が、ゆっくりと下げられていく。
「や、っ」
Cカップのふっくらした生の乳肉が現れ、ついに、桃色の乳首が顔を出した。
「せんせ、っ天野先生っ」
広美は恥ずかしさに目をつぶり、動かない両腕を頭上に上げたままいやいやするように髪を振り乱す。
そんな広美に構わず、反対側のブラジャーの布もぐいっとずり下げられた。
「っ……!」
天野には決して見られたくなかった、立ち上がった両方の乳首がまざまざと晒された。
──恥ずかしい。
それなのに、硬くなったみっともない乳首も、お尻みたいに、めちゃくちゃにぶってほしい。
乳房を晒された羞恥と、もっといじめられたい欲、相反する気持ちが襲い、広美は混乱寸前になる。
「少し、体勢を変えようか」
天野が淡々とした口調で言う。
「ベッドへ、座って」
「はい……」
恥ずかしさで天野を直視できない広美は、目を伏せたままベッドに座る。
広美の足首に、赤い縄が巻かれた。
膝を立て折りたたんだ足を束ねるように、太もも、ふくらはぎと、ぐるりと縄を巻き付けていく。
巧みに縄を操る天野の姿は華麗で、たまらなく男らしく、広美は完全に魅了されていた。
縄が素肌を這うたび、火が燃え広がるように身体が高ぶっていく。
剥き出したままの乳房が、チリチリと火の粉に焼けるように熱い。
あっという間に、片足を曲げた状態で拘束された。
もう片方の足も、同じく折りたたみ、縄をぐるぐる巻かれる。
「……っ」
広美は、M字開脚の姿で固定された。
前回は、服の上からの緊縛だった。
今の広美は、ベッドの上で縄の隙間から乳房を剥き出し、開いた両足から股を覗かせている。
下着を履いているとはいえ、股の中心部が露骨に見えてしまうこの格好は、もう何の言い逃れもできない。
私は恥ずかしい卑猥な女です、と全身で宣言しているようなものだ。
「く、っ……」
ギシリ、ギシリ。
広美の全身を、赤い縄がきつく締め付ける。
後ろで固定された両腕は動かず、何の役にも立たない木偶の坊だった。
露出した乳房を隠す方法は何もない。
隠すどころか、肌に食い込む縄が、ぷるんとした乳房の丸みをいっそう際立たせている。
縄の合間からボンレスハムのように白い肉が覗く両足は、もがけばもがくほど、股が露わになる。
ベビーピンク色のショーツの中央には、隠しきれない淫らな染みが浮かび上がっている。
ベッド脇に立つ天野は腕を組み、木偶の坊になった広美をじっと見ている。
広美は、縄が天野の手に変わり、裸の全身を彼の手で締められている感覚にもがいていた。
両手首、胴体、太もも、両足首に絡みつく天野の沢山の手が、広美の身体を熱する。
縄から、天野から、もう逃れられない。
どうあがいてもびくともしない縄の締め付けに、どんどん息が苦しくなる。
「はあ、はあっ」
──ふわり。
突然、広美の身体を、天野の広い胸が包み込んだ。
何年も感じていなかった生身の人間のぬくもりに、広美は戸惑う。
「頑張ったね」
木偶の坊の広美を抱きとめたまま、天野が穏やかな声で囁いた。
「まだ2回目なのに、少しきつかったかもしれない。よく耐えたね」
──そうだ。私は、誰かに優しくされたかったんだ。
天野にそう言われたとき、冷え切っていた広美の心にじんわりと温かさが広がった。
──電話相談で事務的な離婚手続きの話を聞く前に、私は、こうして誰かに抱き締められたかった。
SMで、ここにいてもいい安心感と快楽を得たかった。
縄で動けない今の私は、全部身をまかせて、快楽を感じているだけでいい。
いつも、家で感じているような緊張感や閉塞感は、今はどこにもない。
「身体は、大丈夫かな」
天野が、縄をほどこうとした時。
「このまま、してください」
広美はそう口にしていた。
⑨背徳の行為
突然の広美の言葉に、天野の動きが止まる。
広美は、汗を滲ませながら言う。
「このまま、縄で縛ったまま、してほしいんです、お願いします」
いつも自分を抑えて、言いたいことを我慢していた広美はもうどこにもいなかった。
少しの沈黙の後、天野が口を開く。
「でも、本当にいいの?」
「私、先生としたいんです。先生とセックスがしたい」
もう止まらなかった。
巨大な欲望の前では、家庭があるのにとか、不倫はいけないだとか、そんな理性的な思考は吹っ飛んでいた。
偉大なほど大きな肉欲には、人間が頭で考えて後から作った世間一般の常識など、ちっぽけなものでしかなかった。
「わかった」
天野がそう言うと、
「あっ」
縄で開いたままの広美の股に伸びた天野の手が、ゆっくりと、黒い染みの浮かぶベビーピンク色のショーツの端にかかった。
男の手が、そのまま、薄い布をゆっくりと横にずらしていく。
「っ……」
M字に開いた足の奥に、濡れ光るピンク色の秘部が現れた。
ヒダは充血してぷっくりと膨れていて、大きくなった陰核まで剥き出ている。
反射的に閉じようとする足を、縄が押さえつける。
自ら求めたものの、縛られたまま、濡れた性器をまざまざと晒されるのは、全身が真っ赤になるほど恥ずかしい。
それに、天野が、10年前いつも教壇に立っていた元塾講師だと思うと、背徳的な興奮で頭がおかしくなりそうになる。
「……」
しばらく無言のまま、天野が広美の秘部を見つめる。
ヒダの合間から淫らな液が滴っていやしないかと思うと、死にたいほどの羞恥が襲う。
顔から火が出そうな広美に、天野が追い打ちをかける。
「薫子さんのここ、すごくいやらしいことになってる」
「言わないでください、恥ずかしくて、私、もう」
羞恥に歪む顔を隠したくても、くくられた手ではどうしようもない。
「もう、何?」
「っあっっ!」
男の指が触れた瞬間、トロトロの蜜に満ちていた内部が崩壊した。
天野の指がぐっと奥に差し込まれ、ゆっくり動くと、ただひたすら訳がわからないほどに奥が熱くなる。
恥ずかしさも忘れて、広美は声を上げた。
「んんんんっーー!」
声を押し殺そうとしても、天野の指が次々と送り込む快楽に耐えきれず、恥ずかしい声が次々漏れ出てしまう。
同時に、触ってほしいと言わんばかりに顔を出し、存在を主張する陰核を天野が円を描くように転がすと、高温のマグマが弾けたような熱が下半身に走り、広美の腰がヒクヒク跳ねた。
「ああっ、あぁああっ!」
広美はもう、喘ぐ声を出すのが精一杯だった。
元講師の天野の前で痴態を晒していることの言い訳など、何も言えなくなっていた。
ヌルリッ。
天野が引き抜くと、ドロドロの粘液まみれの節くれ立った指が現れた。
「はあ、はあっ」
すでに息切れ寸前の広美の前で、天野がシャツを脱いだ。
筋肉質の厚い胸板が露わになる。
ひとまとめに結んだ髪の太い首元が、いかにも男性らしい。
スラックスのベルトを外すと、濃紺色のボクサーパンツが現れた。
中央には、明らかに目立った盛り上がりがある。
ボクサーパンツの中の天野のものが、大きくなっている。
その事実に、広美は頭が沸騰寸前になる。
スルリ──
天野がボクサーパンツを下げると、ムクリと勃ち上がった、ガッチリと硬い男根が姿を現した。
好きだとか、俺もしたいだとか、そんな言葉を言うまでもなく、勃起した男性器がすべてを物語っている。
広美は、両手を頭の後ろで縛られ、両脚はM字に開いたまま固定されており、がばりと開いた秘部を遮るものは、何もない。
ヌプ……
「あ、っ」
まだ手で触れてもいないペニスが、広美のぬかるみにあてがわれた。
充血し溶けかけたヒダに、男の硬い幹が当たる感触はたまらなかった。
ヌプププ……!
「ああ、っ」
男のペニスが膨れたヒダをかき分け、ゆっくりと、女の奥へ進んでいく。
「ああぁああっ!」
ズプンッ……!
雄幹が、蜜壺の奥を突き上げたとき。
高熱の快楽電流が、女の下半身を貫いた。
ズプッ、ズチュ、ズチュッ……!
「んっ、んっ、んあああっ……!」
熱い空洞を男の硬いもので突く、重苦しくも巨大な快感に息が詰まる。
「あぁあああーーっ!!」
広美は今まで堪えてきた感情が暴発したかのように、下半身に淫らな液を溢れさせ、声を上げて喘ぐ。
元塾講師として出会った男のペニスが、今は、自身の中に入り込んでいる。
その事実も、広美の興奮を煽る。
「薫子さんの中、ぬるぬるで絡み付いてきて、すごい、うっ……」
「あああっ……! 天野せんせ、大きいっ……奥が、もう、いっぱいでっ」
ズプン、ズプンッッ!
いつも広美の様子を気遣う天野だったが、今は我を忘れたように、広美のぬかるみへ腰を打ち付けている。
くくられていた天野の髪はほどけ、ピストンする動きに合わせて揺れる前髪が妖艶だ。
汗ばむ天野から香る男性の匂いが、広美の欲情をよりかき立てる。
「う、ッ……」
いつも落ち着いている天野の、余裕のない姿を見るのは初めてだ。
「う、ンッ、!? ッ……!」
突然、喘ぐ広美の唇に、天野の薄い唇が重なった。
「ふっ、んっ、はぁっ……!」
下半身を打ち付けながら、ちゅむ、ちゅぱっと音立てて天野が荒々しく広美の唇を奪う。
教壇で授業をしていた、あの天野の汗の匂い、唇の感触、キスの仕方、ペニスの形状が、こんなにいやらしいものだったなんて。
両手拘束の広美から、天野に触れることはできない。
どれだけよがっても、背中に腕を回して抱きつくことすらできないため、広美は必死で天野の口腔内に舌を伸ばし、蜜壺でペニスをぎゅうぎゅう締め上げる。
「んああぁああっっ……!!」
ぬめる蜜穴をガチガチの硬い肉棒で突かれ続け、骨盤がとろけるような快楽が広美を襲う。
結婚式のためにしっかり施したメイクは快楽の涙で崩れ、綺麗にセットした黒髪はぐしゃぐしゃに乱れて、汗で首筋に張り付いている。
「縄が、鳴いているよ」
天野が、腰を打ち付けるたびにぷるぷる揺れる胸の谷間に食い込む縄を、ぐいっと飼い犬の手綱のように引っ張りながら言う。
縛り上げた無抵抗の女がペニスの快楽に身体をよがらせるたび、縄がギシギシきしむ。
「だって、動けない、からッこんなの、初めてッ……」
「本当にその通りだ。こんなことをしても、何をしても、貴女は僕の前から動けない」
「あうっっ!!」
縄から覗く乳首を天野がさすると、広美の身体が震える。
「虐めがいのある乳首だ。すっかり立ち上がって、硬くなってる」
「あううんッッ!!」
Cカップのピンク色のブラジャーからぷるんと覗く乳肉の中央にそびえる乳頭をひねり上げると、広美はビクビク跳ねた。
乳首をこんなに強く触られたら痛いはずなのに、おかしなことに、今はただひたすら気持ちいい。
ズプンッ、ズプンッ、ズプンッ!!
乳首の快楽でドプリ、と溢れた蜜でぬかるみの増した内部を、ペニスが突き上げ続ける。
「んんんんッあぁああッ!!」
緊縛性交の快楽に、広美は泣きながら喘ぎ続ける。
ヌルリッ──
突然、ぬかるみからペニスを引き抜くと、広美の腕の縄を天野が外した。
頭上で固定されていた両手が自由になる。
解放感にぼんやりした広美は、目の前の雄根に手を伸ばした。
初めて手で触れる天野のペニスは、岩のように硬く勃ち上がっている。
広美から染み出た蜜液をまとい、ヌラヌラ光っている。
そっと触れた天野の雄幹は、みっちりと肉がパンパンに張りつめて膨張していた。
もう離さない、といった手つきで握りしめ、上下に動かす。
ぬちゃりぬちゃりと、上下にしごく動きに合わせて、広美の手のひらに自身のベトベトの蜜液が絡み付く。
「後ろを向いて」
唐突な天野の命令に、両足を縛られたままの広美は、むっちりと白い尻を天野に向けた。
⑩緊縛絶頂
縛り上げた人妻のショーツを下ろした無防備な尻を、天野は、尻肉に指が食い込むほどがっしりと掴む。
──トロリ。
体勢を変えたためか、広美の秘穴から、愛液とも尿とも区別がつかない淫らな透明粘液がベッドのシーツに滴った。
──パシン!
「っ!」
バックスタイルで視界にはベッドの白いシーツしか見えない中、突然尻をぶたれ、広美は目を見開いた。
「こんなに汚して、どういうつもりだ?」
「っ……」
先ほど、自身の陰部から垂れたもののことを言われていると察した広美は、羞恥と情けなさのあまり言葉が出ず、黙り込んでしまう。
──バチンッ、バチンッ!!
「あうぅんっ」
広美の腰がビクリビクリと跳ねる。
今、広美の膣内にペニスは入っていない。
それなのに、尻を打たれた子宮が、天野のペニスで犯されているときのように甘く反応している。
夫ではない、他の男性のペニスでこれまでにない快楽を得ただけでなく、尻をスパンキングするだけで性感を得る身体になってしまった。
再びヒダから染み出てきた淫液が、今にもシーツに垂れそうになっている。
平手打ちでうっすらと赤く染まった尻肉を、天野がぐにぐにと弄ぶように掴む。
アヌスの入口のシワまで丸見えになっているはずだ。
広美はもう、強大な者に囚われた無力なペットのように、すべてを諦め、されるがまま身を委ねるしかなかった。
しかし、そんな状況が、今の広美にとっては唾液が垂れるほどの悦びだった。
いつも、密かに見ていたアダルト動画の女優と、自分の姿が重なる。
動画で見て焦がれていた状況に自分が置かれていることに、恍惚とする。
──ぬちゅり。
膨れたヒダを、天野が両手でこじ開けた。
ぬめる粘液に覆われた秘肉が覗く。
「ほしっ……ほしい、ですっ……」
熱で燻る身体に男の剛直が欲しくてたまらなく、広美は我を忘れてそう口にしていた。
「これが、欲しいのか?」
「ひんっ!」
ぬぐ、と入口のごく浅いところにめり込んだ亀頭部の硬さだけで、広美は眉間にシワを寄せ歯を食いしばる。
このまま入口で弄ばれたら、身体が焦れて死んでしまうかもしれない。
そう思ったとき。
──ズグンッッ!!
背後から、根元まで一気にペニスで満たされた。
天野は、広美の求めるものを上回るやり方で、欲しがるものを次々と与える。
じゅっぷ、じゅっぷと、血管の怒張した肉幹が奥深くを激しく突き上げる。
「ああぁあッッ!! んああああッッ!!」
「もっとだ、もっともっと、みっともない姿になってもいい、それでいいんだ」
両足の自由を奪われたまま、日常生活ではあり得ない多少無理のある後背位で犯される快楽に、広美は狂ったように喘ぐ。
──バシッ! バシッ……!!
「ひんんッお尻、だめですっお尻と中が熱くて、ッあああッ!!」
「本当の自分を晒すんだ。淫乱で、欲深い自分を」
天野の言葉と共に振り下ろされる平手打ちの衝撃が、ペニスに震える子宮の奥に追い打ちをかける。
夫が先に出して終わるだけの、夫婦の単調なセックスの記憶は、今はもうはるか彼方だ。
自分本位な夫との行為にはなかった、セックスで淫れるという感覚が、広美は初めてわかった。
今の広美は、まぎれもなく快楽の虜だった。
自分にこんな一面があったなんて、25年間知らずに過ごしていたことが信じられなかった。
「んぐっ……あぁああッ! イッちゃいそうッおかしくなるうッ!」
こんなに快楽を浴びているのに両足すら自由に動かせないことが、天野の飼育動物になったような感覚をもたらし、広美の脳をより一層とろけさせる。
広美は、大きな解放感を感じていた。
自分が自分でいていい、醜い姿を見せても、それでもいいと言ってもらえることなんて、今までなかった。
今、このベッド上では、普段とは違い自分を抑えることもない。
何も我慢しなくていい。
感じるまま求めて、乱れればいい。
「ああああぁあんッッーー!!」
生きていて、よかった。
広美は、数年ぶりに心からそう思った。
「うっ、すごいな、どんどん中がきつくなってきている。僕もそろそろ、いくぞ」
広美の腰を掴んで揺さぶる天野の動きが激しさを増し、最奥に留まったとき。
ビクビク震える雄幹の脈動に合わせて、広美の目の前に火花が散った。
縛られた両足と腰が、いつまでも震え続けた。
汗と体液に濡れた広美の身体からすべての縄をほどくと、赤い縄痕がくっきりと現れた。
(冬だから、よかった)
長袖と黒いストッキングを履けば、痕は隠れる。
だが、じきに消えると思うと名残惜しい。
天野が溜めた温かい風呂に浸かった後。
パスタやサラダ、紅茶など、ルームサービスの温かい料理が届いた。
これも天野の手配だった。
「外でご飯を食べるのが、本当に久しぶりで……! 嬉しいです、ありがとうございます」
心躍らせながら食事をする広美に、天野が不思議そうに問う。
「外で食べるのが、そんなに久しぶりなの?」
「そうです。今日の結婚式での食事が、たしか、半年ぶりとか……」
「え、どうして? 1人でランチとかもしないの?」
「はい……中々、できなくて」
「なんで? 外食が嫌いなわけではないよね?」
真顔で問う天野に、広美はおずおずと夫や姑とのことを話す。
「家庭がうまくいっていないとは聞いてたけど、そこまでひどいとは思わなかった」
天野が深刻な顔で言う。
「なぜ、旦那さんやお姑さんは、薫子さんのことを無下にするの?」
「私が、色々な能力が低くて、ダメだからだと思います」
「でも、薫子さんは薫子さんなりに一生懸命やっているわけでしょ。そんなに完璧にできる人間なんていない。それに、苦手なことを無理してやる必要はないんだよ」
「苦手な、こと……。私、本当は、料理が苦手なのかもしれないです」
「あ、そうなんだ。それはどうして?」
「手順通りに量とかを正確に測って作るのが苦手で。物覚えも悪いから、いつまでもレシピも覚えられなくて時間がかかるし、自分なりの楽なアレンジとかも思いつかないんです。SNSでキラキラした料理を載せてる人
もたくさんいるのに……」
「別に、料理嫌いがダメなんてことは1つもない。人と比べる必要もない。今は便利なミールキットとか宅食とか探せばいくらでもあるし」
「……そういえば、私、掃除だってそこまで綺麗でなくても気にならない。洗濯物を必ずたたんでしまわなくても、別に平気なんです」
「なら、それでいいんだよ。主婦だからって、全部完璧にやらなきゃいけない決まりはないよ」
パスタを口に運びながらきっぱりと言う天野に、広美は凝り固まった頭がほぐれる感覚がした。
誰かとこうして食事をするのは本当に久しぶりで、心にぽっと明かりが灯る。
天野といると、色々な欲が満たされる。
食欲に、褒められたい欲、人に優しくされたい欲、そして、性欲。
「ねえ、薫子さん。無下にされていい存在なんていない。ご両親もいなくて、ずっと辛い思いをしてきたんだから、これからは、自分のやりたいことを、やりたいようにしてほしい」
そう言いながら、天野は広美を抱きとめる。
「自分の人生なんだから、未来は自由に選べるんだよ」
天野との逢瀬の後。
夢心地で帰宅した広美は、それからは夫に何を言われても傷つくことなく、淡々と離婚の準備に入った。
別居や離婚の手続きを調べ、求人をチェックし、1人で暮らすために必要な費用や使える制度をまとめる。
少し前まで、傷だらけで思考力が弱っていた広美だったが、天野との逢瀬や度重なるメールのやり取りで心が回復し、今後のことを考えられるまでになったのだ。
姑からの電話も、出ないと決めた。
ブーッ! ブーッ!
毎日姑の着信で鳴るスマホを、その辺に放って置き続ける。
──電話なんて、出なければなんてことないものだったんだ。
ピンポーン! ピンポーン!
電話に出ない嫁に怒った姑が家に来ることもあったが、居留守を使ったら、諦めて帰って行った。
広美は、こうするしか自分を守る方法がなかった。
天野とは、相変わらず毎日連絡を取っている。
けれども、天野と恋人関係になるとは考えにくく、広美もそれを求めない。
──ただ、また縄で縛って気持ちよくしてほしい。
そして、おいしいものを食べながら、色々な他愛もないことを話したい。
次の逢瀬が待ち遠しい。
広美を気遣うメールに返信を打ちながら、広美はそう思った。
もうすぐ春になり、薄着になると、縄痕が目立つだろう。
それまでに離婚を済ませたい。
広美はそう考えながら、買い物へ向かう。
(きれい。いつのまにか、咲いてたんだ)
スーパーまでの道の途中の、山に生える白や赤の梅の花が満開になっていた。
梅の花が散ったら、次は桜だ。
あと少しで、気温もぐんぐん上がり続ける。
春は、もうすぐそこまで来ている。
[完]
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更新情報
2024.04.18 ①夫には秘密の情事を掲載
2024.05.01 ②冷めきった夫婦生活を掲載
2024.05.16 ③モラハラ夫に虐げられる日々を掲載
2024.05.29 ④S男性の驚きの正体
2024.06.13 ⑤はじめての縄
2024.06.26 ⑥夫への秘め事
2024.07.11 ⑦若妻の決意
2024.07.24 ⑧二度目の緊縛
2024.08.09 ⑨背徳の行為
2024.08.21 ⑩緊縛絶頂